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大河ドラマもあと数回を残すのみとなり、主人公も事実上、直虎から、徳川家における井伊直政(まだ万千代であるが)に移行した。
徳川といえば、なんといっても山岡荘八の17年に渡る執筆という、全26巻『徳川家康』…岡崎城には直筆を彫り込んだ石碑も建てられている。
とても通読する根気はないが、今年の大河ドラマに対応する部分だけ拾ってみようかと、最寄りの図書館に文庫が全巻そろっている(はっきり言ってほとんど貸し出されず、いつも全巻そろっている(^^;)のを幸い、ちょっとチェックしてみた。

井伊万千代登場は4巻の終わり近く。大河ドラマと違って、最初から虎松ではなく井伊万千代として登場する。もちろん小野玄番の息子とユニットを組んだりしてもいない。一人で家康に会いにやってきた万千代を見て、家康が感慨深く「するとおぬしは、この井伊谷の主であった直親どのの忘れ形見か」と言うシーンはあるが、次郎法師直虎や小野正次、万千代の生母については全く言及されないし、松下家はどうなっているのか、井伊家復活が成った時に万千代の名も家康から貰ったのではないかと思うのだが、そのへんはスルーになっている。まぁ徳川家康の全人生となると膨大な数の登場人物で、それぞれの親族背景まで細かくやってる余裕はないには違いないが。
家康がすぐに万千代を召し抱えた(もちろん、草履番とかはスルーですぐに小姓になったようだ)のは、井伊家も昔の松平家と同様に今川に苦しめられたことから、この名門の流浪の子を庇護することにより、井伊谷を中心とする奥浜名一帯の民心を味方につけようという目論見があったとしている。実際、その後の展開の中で、万千代が家康の側近くまめまめしく仕えている様子はたびたび登場する。

そして信康事件は、5巻から7巻にかけて、じっくりと描かれる。
先日のNHK-BS「英雄たちの選択」で、信康事件があまりにも好いタイミングで取り上げられ、信長によって武田内通の「疑いをかけられた」のではなく、岡崎の信康派は、はっきりと織田と縁を切って武田につくことを考えていたと言っていたが、ひょっとしてこれが大河ドラマの予告編かと思ったのだが、森下脚本ではこれをなぞらず、あくまでも織田信長を「魔王」イメージで描いていた(愛撫していた小鳥を次の瞬間、表情も変えずに狙って射落とすエビゾー様にクラクラした視聴者も多かったことだろう)。実際にはこの時点での信長は、そこまで無双ではなかったのではないかと、関東人としては、ここで徳川が織田と手を切って武田と和睦し、北条・上杉も含めた関東一大勢力を構成して天下を取ってほしかったが(幻の夢)。

山岡本の信康事件で何がすごいって、築山御前(瀬名)の憎まれ役ぶり描写が半端ない。
山岡本を通読する気にならない理由の一つは、長すぎることだけでなく、全開の昭和オジサン的女性観にウンザリすることもあるのだが、秀忠の生母となる西郷局お愛の良妻賢母ぶり(「八橋の杜若のような」と形容されている)、結城秀康を生むお万のエキセントリックさ、子は産まなかったが聡明で側室たちからも尊敬される有能な女性リーダー信長正室お濃など、多彩な女性群に対し、それらの美質を全く持たず、自己中で嫉妬深くプライド空回りの結果追い詰められていく築山御前が、結局すべてのインパクトを持っていってしまう描写力はすごい。
女性観の古さとストーリーテリングの手腕とは別物ってことですね(申し分ない価値観でありながら、つまんない小説というのも多々ありますからね)。

山岡本の家康は、1983年の大河ドラマを始め、何度も映像化されているが、なんといっても脳裡に焼き付いているのは扇千景さん(後の参議院議長!)の築山御前である。市川右太衛門・北大路欣也の父子出演で大きな人気を集めたこのドラマはNHKではなく、当時まだNETといっていた現在のTV朝日で、1964-65年の放映、まさに朝ドラ「ひよっこ」の時代で、家庭の録画など夢のまた夢、テレビ局にさえフィルムは全く残っていないというし、Wikiにも出ていない。当然、ごく一部しか見てはいないはずだが、その後多くの女優さんたちによって演じられてきたにもかかわらず、築山御前といえば扇千景以外の名が思い浮かばない。
ちなみに今回の菜々緒さんは、森下脚本のキャラ付けも全く違うこともあり、私の中では築山御前(扇千景)・瀬名(菜々緒)という、全くの別人になっている。
また山岡本では、築山殿の母が井伊家の女性であったことにも触れられておらず、瀬名は「今川太守の姪」となっているが詳しい姻戚関係はわからない。父の関口親永については比較的詳しく語られているのだが。

信康事件にも影響を与えたとされる秀忠の誕生であるが、森下脚本では、秀忠の母は単に「側室」というナレーションで名前も出ず、全くの「その他大勢」扱いであった。
のちの結城秀康の存在も全く無視で長丸(秀忠)が完全に次男と化していたのは、ツイッターとかでもつっこまれていたようだ。濃姫も徳姫も登場しないし。
でもこれは、井伊家と直接関わりがないところはカットという意識的な作業であろう。そのため、信康については、万千代が岡崎に長丸出生を知らせにいく等、苦労して繋がりをつけていたようだ。
井伊万千代と関係の深い徳川四天王はきっちりと描かれているが、榊原康政がかっこよすぎるゾ。とても兎忠と同一人物とは思えないじゃないか!

さて、今後の展開としては、おとわがメル友瀬名を助けようと画策するらしいというのは想定内だが、誰も予想しなかった氏真の登場! 家康からの(三ケ日みかんの絞り汁で書かれた♪)密書が氏真に! 森下脚本の超オリジナルパワーが炸裂だ。これはいったいどう動くのだ? 
山岡版と違い、今川と家康の間にはまだ絆が残っていて、三河勢は100%アンチ今川ではなかったという事のようだ。
それと事件の発端、もともとは、万千代が「寝所の手柄」がらみで、信康の臣下に武田の間者が入り込んでいたことをおおっぴらにしてしまったのが悲劇の始まりとなった?? これは森下脚本のうまいところで、視聴者は「何やってんだ万千代~~」となると共に、未熟者の万千代がこの悲劇を目の当たりにすることにより成長し、また家康と信長の関係が井伊と今川の関係と二重写しになっていくのを予想させる。更には将来的に家康と豊臣秀頼との関係にもだぶっていくのかもしれないが、その頃はもうおとわ=直虎は存在しないので、最終回のイベントが何なのかというのも期待させる所だ。

調べてみると、次郎法師直虎の没年は本能寺の変の年で、変の二か月後くらいに亡くなっているようだ。ということは、本能寺と続く伊賀越えが最終回だろうか。龍雲丸の再登場はあるのか、等など、最後まで予断を許さない展開のようだ。

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山岡荘八『徳川家康』の万千代と信康事件
昨年の「真田丸」では、あっという間に終わってしまった関ヶ原というのが話題になったが、今年の桶狭間も、織田信長も出て来ず、定番の今川義元討死シーンも省略で終わった。主人公視点を中心にとらえ、いわゆる歴史的見せ場は作らないというのが、最近の大河ドラマのトレンドになりつつあるということか。
井伊家にとっては「おいしい仕事」になるはずだったのが、まさかの負け戦、それも当主が討死してしまうという悲劇に見舞われる。一方で、将来、主人公と深い関わりを持つ松平元康(徳川家康)は、まさかの展開に慌てたものの、結果的にはとんでもない幸運が転がり込んできたことに気づく…というのが前回の流れで、今回はそれに続いて、ようやく待ちに待った井伊家嫡男の誕生、しかしその直前に、生母の実父が不慮の死をとげ、またまた家中の火種がくすぶり始める。
月23日の記事に入れた井伊直虎本3冊では、直政(虎松)誕生がどのように書かれているか。
まず最もコンパクト版の火坂雅志『井伊の虎』を見ると、あれ?? 虎松は、井伊直親が井伊谷に帰参した時すでに生まれており、直親は妻子を連れて帰ったということになっている。そして生母の父、奥山朝利は「信濃との国ざかいに近い土豪」で、逃避行していた直親を匿い、自分の娘と娶わせた。奥山朝利が小野正次を襲って返り討ちとなる事件は、短編ということもあるのだろうが、完全にスルーされている。

他の2冊では、ドラマとほぼ同じ展開で、虎松誕生と奥山事件が描かれている。
ただ生母の名は「ひよ」(梓澤要『女にこそあれ次郎法師』)、「日夜」(高殿円『剣と紅』)で、Wikiでも「奥山ひよ」となっているので、ドラマの貫地谷しほりがなぜ違う名なのかは不明。
それはともかく、井伊直親は、逃避行中にも正室とは別の妻子(娘)があったというのは史実らしい。梓澤・高殿の両作品でも触れられている。ドラマでは省略なのか、それとも今後サプライズな登場予定になっているのかわからないが。
井伊谷関係の史料は最近までほとんど不明で、次郎法師についても謎が多いというのはよく言われているが、火坂作品は梓澤作品よりもずっと後に書かれているのに、なぜ逃避行中の隠し妻(?)を正室の奥山女にしてしまったのかわからない。井伊直政の生年が桶狭間の翌年の永禄四年(1561)というのは、いろいろな所に書かれていて定説だと思われるのだが。

さてドラマの方は、桶狭間で父を亡くした次郎法師の悲嘆、当主を失って混乱する井伊家、その中でようやく嫡子懐妊の喜び、といった流れはほぼ納得いく形で描かれていたが、奥山朝利の事件はどうも消化不良である。ドラマでは、奥山vs小野、一対一の個人的な事件として描かれていたが、先述の2作品(たぶん史実も)では、奥山が手勢を率いて小野を襲うが返り討ちに合うという、ミニ内乱のようなものだったらしい。
奥山朝利は多くの子を持ち、娘たちをそれぞれ、井伊家嫡男の直親・小野政次の弟玄蕃朝直(桶狭間で戦死)に嫁がせた。ドラマにはこの二人しか登場しないが、その他、中野直由・井伊谷三人衆の一人鈴木重時の室も奥山の娘である。
短いシーンではあったが、奥山がうまく立ち回り、あちこちに娘を縁づけて家中での存在感を強化しようとしているキャラは、よく出ていた。しかし、娘たちが姉妹であることが視聴者にはあまり印象づけられていない。中野直由はドラマに登場しているので、彼の妻である娘もちょっとでも登場すれば良かったのに(そもそも、せっかく浜松出身でもある筧利夫さんが演じているのに中野直由の存在感が薄すぎる!!坂本竜馬の用心棒を勤めた長州人を演じた時はワンポイント出演でも非常に印象的だったのに)

それだけ上手に立ち回っていた奥山が、なぜ急に小野政次(=鶴)を襲うような事になったのか。まぁこれは小説でも、充分に納得いくような描かれ方はされていないのだが、少なくとも、もう少し人間関係を先に丁寧に描いておいてほしかったと思う。最初の数回が、子役たちが良かったとはいえ、あまりにも鶴亀おとわのドリカム・グラフィティで終わってしまったので、鶴の弟もいきなり登場した感じだし、山口紗弥加が鶴の妻ではなく、戦死した弟の妻だというのも、何となくわかりにくかった。(そういえば、鶴はまだ結婚していないのか? Wikiでも妻については「不詳」となっているが…)

井伊家については、このようにやや描写が雑な所が目につくが、今後の期待は、徳川家康と、後の築山御前となる瀬名姫とその子供達の話である。こちらも悲劇的結末となるのはよく知られているが…ドラマでは、瀬名姫と次郎法師がメル友という設定になっているのも面白い。
家康の生母であるお大の方は登場するのだろうか、ぜひ登場して築山御前との嫁姑バトルを繰り広げて欲しいのだが。
あまりそちらが中心になると、井伊家の大河ドラマでなくなってしまうという懸念もあるが、築山御前の母はドラマにも登場している通り、井伊家の女性である。家康の長男信康が、この母方の血を引くことになるのも、井伊家的には重要な点である。
一般に歴史ドラマは、父系の血脈で語られるが、母系の流れを見るとまた違ったものが見えてくると、永井路子氏などがよく言われている。
井伊&徳川の今後の展開、次郎法師の「龍宮小僧」ぶりと共に期待したい。
井伊直政誕生

新年が明けたと思ったら、あっという間に1月も後半になり(毎年そう言っているのだが、)大河ドラマ「おんな城主直虎」も3回が過ぎた。
初回の印象は、登場人物たちの動きよりも、風景がとても綺麗に撮影されていたこと。山水の美しさ、水の国井伊谷という雰囲気が伝わってくる所がとても良かった。

紅白も大河も、スマホでネットの反応を見ながら楽しむのが昨今の主流だとか、私はまだガラケー族なので、ドラマの反響もたまにPCでちょっと覗くだけだが、けっこう笑えるものが多い。
「井伊の首、みんな持ってって!」駿河太守@笑点司会者は、やっぱり言われているようだ。
一番笑えたのは「井伊谷を何とかすっぺ委員会」というキャプションでの杉本哲太さんと吹越満さんのツーショット写真@あまちゃん、そういえば漁協組合長も井伊家にいなかったか?

さて肝心の内容であるが、子役たちが頑張っているのは評価できるとしても、子供の頑張りに頼り過ぎている感じがある。NHKの倣いで致し方ないとはいえ、子供に振り回される大人の演技が大げさすぎるのは、朝ドラなら許容範囲でも大河では白ける事が多い。

昨日の3回目では、姫・亀・鶴の子役トリオに加えて瀬名姫(後の築山御前)と子供時代の氏真も登場した。家康も子役が出るのだろうか?
せっかく登場させるなら、長過ぎた蹴鞠シーンの時間を少し省いて、そのぶん瀬名姫の両親と井伊家の繋がりなども、初回からもっと詳しく説明しておいたほうが良いのにと思う。
それに、今川の圧力に対抗して独立を願う井伊家という構図はわかりやすいが、「真田丸」でさんざん、あっちについたりこっちについたり、裏切ったのがばれてもシラをきりとおす、みたいな攻防に慣らされて来た視聴者にとっては、単純過ぎるというか少し物足りない。謀反を疑われて謀殺される井伊家の親族が、史実では兄弟二人のところドラマは亀之丞の父一人に省略してしまったのは仕方がないとしても、かなり杜撰な謀反計画みたいだし、井伊家の人材がこんな調子ならば、今川家の傘下に入った方がむしろ、この先安全なんとちゃう?みたいな感想を持ってしまう(-_-)

下でご紹介する関連本でも描かれているように、当時のこの地域は今川&井伊だけでなく、武田・北条・織田等など込み入った絡み合いがあった訳で、そのあたり、子供たちに親とか和尚が説明する形などでもよいから、或はナレーションの元直弼(これは気の利いた配役、もしかして最終回に登場とか?)の説明であっても、複雑な背景をもうちょっと視聴者にも共有させておけば、今後の展開にもっと興味がわくのにと思う。
もう十年も前の大河になってしまうが、「風林火山」は、そのあたりが多少敷居の高い所もあったけれども、甲斐だけでなく信濃・越後・駿河など各地の勢力の腹の探り合い・攻防戦をじっくりと描いていて良かった。

さて今回の主人公、「女にこそあれ、井伊家惣領に生まれ候間、僧侶の名を兼て次郎法師とは是非無く、南渓和尚御付候名なり」と『井伊家伝記』に記された女領主井伊直虎。最近、男性であったという説も出てきたけれど、「井伊直虎」なる人物が男性であったとしても、次郎法師という僧侶の名を持つ女性領主が井伊谷をしばらく統治していたという事実は明らかであるらしい。戦国の世にこうした女性が存在したということは非常な興味をそそるけれども、史料が少ないため、長らく、知る人ぞ知る謎の存在であったようだ。

彼女を扱った小説は、探した限りでは下記の3点である。もちろん、他にもいろいろ出ているが、出版年の新しい大河ドラマ便乗本と思われるものは除く。この他に、津本陽が『獅子の系譜』という、井伊直政を主人公にした小説を書いているが、これは直政が家康家臣となってからの活躍を描いたもので、次郎法師については殆ど言及されていないようだ。

まず火坂雅志の『井伊の虎』(2013、初出は2012オール讀物)。これは家康周囲の人物たちについての伝記を集めた『常在戦場』の中の一短編だが、一番てっとりばやく概要がわかる。コンパクトでわかりやすい分、とくに作者の視点とか独自の思い入れというのはなく、台詞付きWikipediaみたいなもんである。はっきり言ってこの作者の場合、長編でもそういう感じのが多いが――というのは決して貶しているのでなく、某歴史小説大御所のように独自の歴史観を延々と述べる長大作がよいか、さっと読めて相応の基礎知識を得られ、解釈感想は読者の御自由というのがよいかという、全くの好みの問題。

梓澤要『女にこそあれ次郎法師』(2006、2004-5歴史読本連載)。この作者は1993年に歴史文学賞を受賞した『喜娘』を始め、古代・奈良・平安時代をテーマに数々の歴史小説を書いており、最近では戦国・江戸時代にも筆を伸ばしている。多くの登場人物それぞれのキャラが立っていて読みやすく面白い。

高殿円『剣と紅』(2012、2011-12別冊文藝春秋連載)。全く知らない作家で女性か男性かもわからなかったが、Wikiによれば、角川学園小説大賞奨励賞を受賞してデビュー、ファンタジー小説や漫画の原作なども書いている女流作家らしい。確かに表紙はそんな印象だが、内容はなかなか硬派な歴史小説だ。ヒロインが予知能力を有する女性として描かれている所などちょっとファンタジーぽいけど。全体のストーリーが、家康の小姓となった万千代(直政)が、主である家康に問われてマイライフを説明するという構成になっているのは良いアイデアで、ドラマでもこうした方法を取ればわかりやすかったかもしれない。

この三作品、ヒロインの名前は全部別々である。火坂作品では、どストレートに「直姫」。梓澤作品の「祐」はたぶん、次郎法師の尼としての別名「祐圓尼」からであろう。高殿作品では「香」で「かぐ」と読ませている。井伊家の伝説の井戸の傍に橘(かぐのみ)があったのが由来としている。
Wikiを見ると、生年・没年・幼名すべてわかっているのは亀之丞(後の井伊直親)だけなので、各作家も知恵を絞って名前をつけたようだ。以前に発表された作品とかぶってはパクりになってしまうし苦労する所に違いない。ドラマの「おとわ」は由来がわからないが、同じく幼名不明の小野政次が「鶴丸」なのは、亀に対して鶴という遊び心だろう。

年令も姫と鶴は没年しか史料がないらしいので、3人をほぼ同年齢の幼馴染とした設定も理解できるけれど、上記3冊では、姫と亀はほぼ同年だが小野家の鶴は年上で、もっと距離感のある関係に描かれている。
今後のキーパーソンはこの「鶴」かもしれない。現在、思いっきり悪役になっている父親の和泉守政直は間もなく病死してしまい、それをきっかけに亀之丞が戻ってくるという展開だが、そこで鶴丸(⇒政次)が氷のような悪役に変身するのか、それともヒロインへの恋心を隠しつつ、ハムレットのような悲劇の貴公子となるのか期待が持てる。高橋一生さんならどんなキャラでも達者に演じてくれそうなので楽しみだ。

今、同じ脚本家の「ごちそうさん」の再放送をやっていて、これから戦時中の話になっていく所だが、ヒロインが始めは国策に何ら疑問を持たない素直な「愛国婦人」だったのが、幼馴染の出征とトラウマを負っての帰還、更にはこんなに長引くと夢にも思わなかった戦況の中で、ついに自分の息子までも失い、その痛手に苦しみつつも、戦後をたくましく生き抜いていくという、その経過がなかなか良く書き込まれていたと記憶している。なので本作も安易な「戦はイヤ」の姫大河にはならないと確信するが、これからの大人パート、せっかく演技派の俳優さんたちが揃っているのだから、ぜひ見応えのあるドラマにしてほしいものである。

直虎はじまる

2016年の大河ドラマ「真田丸」が12月18日をもって最終回となった。「朝イチ」の看板女性アナ有働さんのナレーション起用を始め、当初からのNHKの力の入れようも半端なかったけれど、それが「清盛」の時のような空回りに終わらず、これまでの大河ドラマの中でも成功作品の一つとなった事は、細かい所でいろいろなツッコミはあるにせよ、ほぼ衆目の一致するところであるようだ。
ネット上でも、「天地人」「江」「花燃ゆ」などに対しては罵詈雑言に近い辛口批評を投げかけていた歴史オタク男子たちに高い評価を得ていた、或はそこまで行かなくても、毎回の放映をネタに盛んな論議を交わす楽しみを与えていたようである。

ところで、もともと三谷脚本というのは、明るくはっちゃけた女性が自由に行動する様を描いたように見せかけて、その裏、かなりの女性不信・女性嫌悪があると睨んでいたが、ご本人の離婚後その癖が益々強くなっているように思うのは私の僻目だろうか?
母や妻など真田信繁の身近な女性たちも、良く言えば個性的だが、自己主張が強かったりトラブルメーカーだったり扱いが面倒臭かったり・・・これはまぁ、出来過ぎた良妻賢母に描かれることの多い大河ドラマの女性たちのアンチテーゼとしてわからなくもない。
作者オリジナルのヒロイン「きり」(真田家重臣の娘に、これに当る女性がいたのは史実らしいが、詳細は不明の人物で、そのキャラや行動は全く作者の創造だという)が最初は非常に不評だったのに、次第に好感度が上がっていったのは作者の腕の良さといってよいだろう。しかしやっぱり、藤沢周平の描く女性たち等とは全然違っていた。
印象的だったのは、大蔵卿(豊臣側)vs阿茶局(徳川側)の女性外交官対決。通説である「外堀・内堀」や、老獪な家康の悪だくみといったイメージを一掃して、女性管理職が仕切る大坂方の現状認識の甘さが敗北を招いたことをこれでもかと見せつけた。
阿茶局が家康のもとで他の老臣たちと共に組織の一員として仕事をしているのに対し、大蔵卿は強力なパートナーとなるべき片桐且元とは協力関係を築けず、本来の敵よりも、牢人たちが「近くにいる鬱陶しさ」という感情面が先に立ってしまって、「牢人たちがいるから戦になるのです。彼らを追い出してしまえば平和が来ますよ。」という阿茶局の甘言にうまうまと乗ってしまうのだ。ここは女性不信だけでなく、「女性がリードする平和運動」にも三谷さんは不信感を持っているのではなかろうかと感じてしまった。
茶々のファム・ファタールぶりは見る人によっては魅力的だったかもしれないが、私は今イチ乗れなかった。竹内結子さんは充分美しく演技力もあったと思うけれど・・・ひどかったのは小野お通の描き方で、なぜわざわざ登場させたのか不明。起用された元フジテレビ女子アナには罪はないと思うが、こちらのブログhttp://blog.goo.ne.jp/yujinan/e/1e7adfd192c89d074180fdefae57a156
のお怒りはごもっともだと思う。  
さらに違和感があったのは千姫の描き方で、お通と違い、秀頼が出る限りは登場せざるをえない人物であるが、「全く大坂に対する情感のカケラもない」という千姫ってNHK・民放を含めて初めてだったのじゃないだろうか。「江戸に帰りたい」「無事に帰れてよかった」だけで終る千姫。「こりゃダメだ」という表情で去って行くきりちゃんに初めて深い共感を覚える。そういえばきりちゃんはどうなったのか?スピンオフで活躍するんだろうか?
「女性蔑視」な作者であれば、さっさと切り捨てて忘れるだけの話だが、女性に対する「蔑視」はないけれども不信感が強く感じられるというものは、どこからそういったものが出て来るんだろうという興味をそそられる。三谷作品、今後もちょっと気になる存在であり続けるだろう。

さて、8日から始まる井伊直虎であるが、脚本の森下佳子さんは、「JIN」・「ごちそうさん」(向田邦子賞受賞)・「天皇の料理番」など手堅いヒット作を書いてきている点、安心感はある。大阪教育大学付属から東大文学部という秀才でもある。

 

不安要素としては、またまたオリジナル脚本だということ、ドラマ性はあるが知名度が低く、人間関係の複雑さなどで敷居が高くなりそうなこと、それを無理にわかりやすくしようとすると、女性主人公にありがちな安易な「女性目線大河」「戦のない世の中にしたい大河」になってしまわないかということ。さらに、もしそこをクリアしてまっとうに描かれたとすると、史実的にはかなり暗い話が多くなるみたいなので、見るのが辛い展開になってしまうかも(「八重の桜」みたいに)・・・なんか、どっちに転んでも心配というネガティブ予想になってしまったが(-_-)
でも、思えばNHK大河ドラマの第一作は、井伊家の幕末の大老、井伊直弼が主人公の「花の生涯」だった訳で、その後井伊直弼は何度も大河ドラマに登場したものの、井伊家が主体となる大河ドラマ再びということで、浜松ばかりでなく彦根の皆さんも気合いが入っているのではないかと思う。とりあえずは第一回を楽しみにしたい。

真田丸