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宝生能楽堂の月並能1月は毎年「翁」で始まるが、昨年も一昨年も正月の日曜日というといろいろ予定が入ってしまい、今年ようやく「翁」を見ることが出来た。
能楽堂もお正月仕様になっていて、お着物でいらっしゃる方もいつもより多く華やかである。
そこここで「おめでとうございます」「今年もよろしく」の声も聞かれる。



「翁」 シテ:小倉伸二郎 千歳:金野泰大 三番三:大藏基誠

「翁」は本当に特別なお能で、「能にして能にあらず」といわれ「その成立は一般の能狂言よりも古く、猿楽の本芸であった翁猿楽を現在に伝えるもので、一般の能以前の古態をとどめている」(小学館編謡曲集の解説より)。
お調が聞こえた後、演者が登場するまで随分時間がかかると思ったら、「翁」上演に際しては鏡ノ間に祭壇を設け、お供えした神酒を全出演者が頂き、切火で身を清めるのだそうである。なるほど、だから地謡も囃子方に続いてぞろぞろと橋掛を歩いてくるのだ(最初、解説を読んでなかったのでびっくりした)。お正月は地謡・囃子方も裃姿なのはおなじみだが、「翁」では何と全員が烏帽子に素袍上下である。忠臣蔵松の廊下の始まりみたいだ。
この行列の先頭でしずしずと面箱を捧げ持って来るのが「面箱持」という役で、狂言方が務める(今回は大藏教義さん)。シテと千歳は、この面箱に納められている面を舞台上で舞の前に掛け、舞が終るとはずして箱に納める。面の取り外しが舞台上で見られるというのも「翁」だけである。
また、シテが最初に深々と拝礼したり、「鈴の段」で千歳が鈴を四方の柱に向って鳴らし寿ぐのも、神事としての特別な能ということで興味深かった。

「草紙洗」 シテ:東川光夫 ワキ:森常好 子方:和久凛太郎 アイ:善竹大二郎
 
小町ものの一つで、昨年9月に女性シテで見て今回は2度目。小町ものはこれしか見たことが無く、卒塔婆小町も通小町も見てないのに、また草紙洗だけど、これ大好きである。子方ちゃんも出るし! 舞は最後だけでドラマ中心の展開、悪役の陰謀・美女の危機・機転によるどんでん返しと大団円、という、シェイクスピア喜劇のような楽しさがある。欧米人にも受けるのではないかと思う。
ワキが通常のような謹厳で控えめな傍観者と違い、太郎冠者のようなコミカル性も含む人間臭さをもって出てくる。今回の森常好さんは恰幅もよく、憎々しげな敵役にぴったり。悪役がたくらんでいる事を観客に向って堂々と喋ったり、アイが和歌を間違えて唱し笑いを誘ったり、一人語りで「せっかく一曲だけ練習していたカラオケの曲を前の人に歌われてしまった。きっと自分の練習をこっそり聞いてパクったに違いない」などと主筋をなぞるような語りをするのもシェイクスピア喜劇に共通している。
子方は和久凛太郎くんで(冠と衣装がよく似合ってすごく可愛かった。詞章もしっかり言えていた)、和久パパも歌人たちの一人で出演されていた。紀貫之が野月聡さんだったが惺太くんの子方の草紙洗も見てみたい。子方は、船弁慶などでは、静が大人なのに義経が子方というのはちょっと違和感があるが、天皇の役で出る時は全く違和感ないというか、大人が演じるよりもむしろ自然に感じてしまう。平安期は実際、幼児や少年の天皇が多かったからかもしれない。
ちなみにこの「草紙洗」は上村松園が絵を描いており、そのエッセイが青空文庫で読める。昭和12年に書かれたものであるが、大変興味深い。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000355/files/47297_33239.html

「舎利」 シテ:藤井雅之 ツレ:亀井雄二 ワキ:高井松男 アイ:善竹富太郎

「仏舎利」は仏の遺骨のことだとは知っていたが、遺歯も含まれること、またお寿司屋さんの「シャリ」の語源がこれというのはお能を見始めてこの作品の解説で初めて知った。まだまだ日本人の常識が欠けている…白米が非常に貴重だった時代を感じさせる。
足疾鬼(ソクシツキ)vs韋駄天の闘いだが、鬼も韋駄天もちょっとコミカルな感じがあって楽しんで見られる。前半の里人の静かな部分(釈迦と仏法の話が延々と続くあたり)でずっと溜めに溜めておいて、一気に後半の激しい動きへと続くが、腕白小僧が親のスマホを(?)持って逃げ「返すのやだもん」みたいに片袖で舎利を抱え込みもう片袖を頭の上にかぶって座り込むところとか可愛くて笑える。ついに捕まってお尻ペンペン(??)あーあ取り返されちゃった、しおしお…と退場。の所で早目の拍手も許される感じの、わりと敷居の高くないお能?
今回の「舎利」は3回目で、この前和泉流のアイの時は、舎利を奪って逃げ去る鬼に突き飛ばされ橋掛中を転がり回るなど動きが派手だったが、今回は鬼と韋駄天の闘いも含め割におとなしめだった。

狂言「宝の槌」 太郎冠者:善竹十郎 主人:善竹大二郎 素破:野島伸仁

太郎冠者が主人にあれこれと言いつくろう、おなじみのパターンの狂言だが、「やるまいぞ」と追いかけて退場するのでなく、和やかに終わるところが正月らしい。
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宝生月並能「翁」ほか

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