忍者ブログ

[75]  [74]  [73]  [72]  [71]  [70]  [68]  [67]  [66]  [64]  [63
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

[PR]
先日の芥川賞・直木賞が、どちらも宮沢賢治関連だったことなどもあって、岩手の南部・遠野が注目を浴びている昨今。ず~っと前の「はいくりんぐ現場検証」で、「津軽vs南部」をちょっと話題にしたことがあった。確か、おるいさんの親戚が津軽にいる(1月の談話室で取り上げた『初春夢づくし』に登場)ことがきっかけで、尾張vs三河もそうだけれど、隣り合っているのに文化的には真逆な傾向のある二つの地域、というのに興味を惹かれていて、太宰治や棟方志功で有名な津軽に比べて今いち地味(?)な南部地方について少し学習したい、という気持ちをずっと持ちながら、なかなか実現できないでいたのだった。
それと同時に、大河ドラマで一挙に知名度を上げた井伊直虎に限らず、この時代実質的に女城主の役割を果たしていた女性はもっといたんじゃないか、そういう女性たちについても知りたいと思っていたところ、この二つの問いに同時に応えてくれる本がみつかった。これはもう読まねば。


『かたづの!』の作者、中島京子さんは映画化もされた『小さいおうち』での直木賞をはじめ、泉鏡花文学賞・中央公論文芸賞など、数々の文学賞受賞を誇る作家だが、小説すばる連載後2014年に出版されたこの『かたづの!』も、第三回河合隼雄物語賞・第四回歴史時代作家クラブ賞・第二八回柴田錬三郎賞を一気に受章したすごい作品である。
ヒロインは三戸に拠点を置いた南部家の支流、根城南部(八戸)氏の第21代当主清心尼で、夫であった20代当主南部直政の死後、江戸幕府より正式に女城主の座を認められた。江戸開府から大坂の陣が始まるまでの出来事で、戦国時代には実質的なものを含めればかなり存在したと思われる女大名・女城主に対し、江戸時代の女城主はこの清心尼が唯一だということだ。
家中の男子が次々と亡くなり、風前の灯となった家の存続のため女の身での城主という形で時を稼ぎ、できる限り戦を避けて血脈を繋ぎ、一家の生活を支えていくために苦労するという展開は、井伊直虎の物語と共通点が多い。直虎にも「井戸」というファンタジー要素がちょっとあったけれども、この物語では、最終的に家が遠野に移るということもあり、民話に出てくるようないろいろな動物や鳥・蛇などが登場して人間と交流する。ファンタジー好きはハマるに違いない。
タイトルの「かたづの」もそのうちの一つで、片角(一本角)の羚羊、「黒地花卉群羚羊模様絞繍小袖」という衣装にその刺繍がされており、今も南部の宝物館にあって数年前東京でも展示されたという。

『かたづの』の中でもちょっと触れられているが、南部一族の中に九戸政実という武将がおり、先日のNHK=BS「英雄たちの選択」に取り上げられていた。
もともと、南部について情報を得るのならこの人、とチェックしていた、高橋克彦さんが『天を衝く』という小説で、この九戸政実を書いており、高橋さんが登場するかと期待していたが、番組に登場していたのは、安部龍太郎さんのほうだった。この人も『冬を待つ城』という作品で、政実を書いており、こちらのほうが10年以上新しいためかもしれない。こちらはまだ読んでいない。
『天を衝く』のサブタイトルは「秀吉に喧嘩を売った男・九戸政実」というもので、NHKの番組もだいたいそういった趣旨であり、それに九戸党の本拠となった「山城」というテーマが加わったものだった。九戸政実は「歴史好きな人でも、この人を知っている人はそうそうはいないですよね」と磯田道史センセイも放送でおっしゃっていたように、かなりマイナー(南部藩という存在じたいもかなりマイナーだけど)であるが、男性の血を沸かせる何かがあるとみえて、高橋・安部両氏のほかにも、けっこう取り上げている男性作家は多いようだ。
あくまでも秀吉に対抗し、反乱者として処刑される九戸政実と反対に、秀吉に恭順政策をとり小田原攻めにも参加した宗家の南部信直は、政実の引き立て役になってしまっているが、『かたづの!』の中では、信直の嫡子利直が、分家を圧迫する宗家としての敵役になっている。同じ家中ではあるが、「直虎」での、今川家と井伊家のような関係になっていて、ヒロインの夫や幼い息子の死の陰で暗躍したように描かれている。
ヒロイン清心尼は南部信直の孫(娘の娘)であり、祖父信直については、家中の反乱を押えて南部家を存続させた功労者として描かれているが、叔父姪の間柄になる利直のほうは終始、主人公グループとは敵対することになる。しかし九戸政実と違って、表だった闘争は起こさず、遠野へ追いやられる結果になっても、辛抱の末に実質的な勝利を得ることを示唆したエンディングとなっている。終盤、死んで金の蛇に姿を変えた叔父利直と、ヒロインとのやりとりは圧巻である。
引き立て役・敵役の南部信直⇒利直系も、この人々がいなければ南部家は存続しなかったわけだし、こちらの視点からの物語も読んでみたいものである。
PR
直虎だけじゃなかった「女城主」

Comments

名前
メールアドレス
URL
コメント
PASS

おもしろそうなお話ですね!
南部藩についてはほとんど知らなくて、やはり「英雄たちの選択」で、九戸政実という人物を知ったクチです。
先々週の同番組では、歴史好きの間では有名だけど、一般的な知名度はいまいちの「山田方谷」を取り上げていましたが、これからも歴史番組では、マイナーな人物や出来事や地域を、どんどん取り上げてほしいですね。

麦わらぼうし  2018/03/27 (Tue.) 21:34 edit

麦さま、いつも有難うございます。
『かたづの!』はお薦めですが、『天を衝く』は文庫でもかなり厚みのあるのが3冊で、詳しいのはいいのですが読んでも忘れてしまうような細かいところが多すぎる感じです。安部さんの本のほうが読みやすそうです。ただ九州出身の安部さんに比べると、東北それも地元南部人の高橋さんの描く九戸政実は、作者の熱い思い入れを感じますね~
山田方谷は見そびれましたが、磯田先生は地元だから張り切っておられたでしょうね。

ストファ管理人  2018/03/28 (Wed.) 22:46 edit