その他「葛城」「車僧」と合わせて三曲というコスパは嬉しいが、番組の1ページに三曲となると、いつも入っている「演者の一言」のスペースがなくなってしまうのは残念。
昨年は確か狂言方が大蔵流だったのが、今年は和泉流?
「翁」 シテ:宝生和英 千歳:佐野登 三番三:能村晶人 面箱:上杉啓太
「葛城」(小書:神楽) シテ:佐野由於 ワキ:福王和幸 ワキツレ:矢野昌平・村瀬慧
アイ:山下浩一郎
「車僧」(小書:白頭) シテ:前田晴啓 ワキ:高井松男 アイ:河野佑紀
狂言「酢薑」 酢売:野村萬 薑売:野村万之丞

仕舞「竹生島」 泉房之介(泉雅一郎の長男、11歳)
仕舞「清経」 谷本康介(谷本健吾の次男、7歳)
仕舞「西王母」 馬野桃(馬野正基の長女、10歳)
舞囃子「橋弁慶」 観世銕之丞 谷本悠太朗(谷本健吾の長男、10歳)
狂言「棒縛」 野村万之丞 上杉啓太 河野佑紀
能「小鍛冶」 前シテ(童子) 馬野訓聡(馬野正基の長男、12歳)
後シテ(稲荷明神) 長山凛三(長山桂三の長男、12歳)
ワキ(三條宗近) 森常好
ワキツレ(勅使橘道成) 宝生尚哉(宝生欣哉の次男、14歳)
アイ(宗近の下人) 野村拳之介(野村万蔵の次男、18歳)

今回は「船弁慶」の姉妹編のような「碇潜」に「橋弁慶」(両方とも子方ちゃんが出る!)それに仕舞は「鞍馬天狗」「屋島」、狂言は先週も拝見したばっかりの野村万作・萬斎父子共演と、いくら忙しくてもこれを見ないでどうするという内容で、早々とチケットを申し込み、ぜったいにこの日は他の予定とぶつからないように注意していた。12月はまだまだ先だと思っていたらアッという間だ。
仕舞「鞍馬天狗」 観世喜之
能「橋弁慶」
仕舞「屋島」 観世喜正
狂言「舟渡聟」
能「碇潜」

長山家は今年、ご自宅のお稽古場に立派な「長山能舞台」を落成されたというし、乗りに乗っているという感じ。
5月の「春栄」、9月の「海士」に行けなかったので、今年最初で最後の桂諷會になってしまったが来年以降の凛三くん達の活躍ますます楽しみだ。
桂諷會は番組がとても充実していて、仕舞や舞囃子の曲目についても詳しく解説されているし、どの部分が演じられるかという記載もあるので、初心者には大変ありがたい。
舞囃子「鞍馬天狗」 長山凛三
仕舞「実盛」 野村四郎
「その執心の修羅の道、めぐりめぐりてまたここに、木曾と組まんとたくみしを、手塚めに隔てられし無念は今にあり」
「老武者の悲しさは、戦にはし疲れたり、風にちぢめる枯木の力も折れて・・・篠原の土となつて影も形も亡き跡の、影も形も南無阿弥陀仏、弔ひて賜び給へ、跡とぶらひて賜び給へ」
仕舞「仏原」 長山禮三郎
「ひとりなを仏の御名を尋みむ、をのをの帰る法の場人(にはびと)」
「法の教へもいく程の世ぞや、前仏は過ぎぬ、後仏はいまだ也」
「嵐吹く雲水の、あらし吹く雲水の、天に浮かべる浪の一滴の露の始めをば、なにとか返す舞の袖、一歩挙げざる前をこそ、仏の舞とは言ふべけれど、謡ひ捨てて失せにけりや、謡ひ捨てて失せにけり」
仕舞「船弁慶」 鵜澤久
「そもそもこれは桓武天皇九代の後胤、平の知盛幽霊なり」
「あら珍しや、いかに義経、思ひも寄らぬ浦波の、声をしるべに出舟の」
「夕波に浮べる長刀取り直し、巴波の紋あたりを払ひ、潮を蹴立て、悪風を吹きかけ、眼もくらみ心も乱れて、前後を忘ずるばかりなり」
「その時義経すこしも騒がず、打物抜き持ち、現の人に向ふがごとく、言葉を交し戦ひ給へば、弁慶押し隔て、打物業にてかなふまじと、数珠さらさらと押し揉んで」
「なほ怨霊は慕ひ来るを・・・また引く汐に揺られ流れて、跡白波とぞなりにける」
狂言「清水座頭」 シテ(座頭)野村万作 アド(瞽女)中村修一
舞囃子「頼政」 観世銕之丞
「そもそも治承の夏の頃、よしなき御謀叛を勧め申し、名も高倉の宮の内、雲居のよそに有明の、月の都を忍び出でて、憂き時しもに近江路や、三井寺さして落ち給ふ」
「さるほどに源平の兵、宇治川の南北の岸にうち臨み、鬨の声矢叫びの音、波に類へておびただし」
「さるほどに入り乱れ・・・これまでと思ひて平等院の庭の面、これなる芝の上に扇をうち敷き」
「さすが名を得しその身とて、埋れ木の花咲くこともなかりしに身のなる果はあはれなりけり」
能「安宅」

舞囃子「松虫」【金春】 山中賢人
舞囃子「龍田」【喜多】 塩津圭介
舞囃子「海士」【観世】 木月宣行
狂言「昆布売」【和泉】 シテ(昆布売):上杉啓太 アド(何某):野村万之丞
能「猩々」【宝生】 シテ(猩々):内田朝陽 ワキ(高風):矢野昌平

今年のユネスコ記念能のテーマは「葵上」、そして仕舞も能のシテも全員、各流派の女性能楽師という点がユニークだ。囃子方でも小鼓・笛が女性。
仕舞 枕崎真由子【金春】 羽多野良子【金剛】 土屋周子【宝生】 大島衣恵【喜多】
タイトルは「葵上」だが葵上は登場せず、シンボル的な「出小袖」が舞台に置かれるのみで、シテは六条御息所。そのいわゆる「うわなり打ち」のサワリの部分が仕舞である。金春流だけは仕舞のタイトルが「枕ノ段」になっている。
シテの持つ扇は赤地に大輪の椿をあしらったもので(大輪の花であることはわかったが、牡丹かしら何だろうと思って、後で能装束の本を見たら椿だった)、鬼扇といわれるもの。「ひと皮剥いたら鬼」ということだそうだ。
「いやいかに思ふとも、今は打たではかなふまじと、枕に立ち寄りちやうと打てば・・・」
「今の恨みはありし報ひ 瞋恚のほぶらは身を焦がす 思ひ知らずや 思ひ知れ」
「恨めしの心や、あら恨めしの心や 人の恨みの深くして 憂き音に泣かせ給ふとも 生きてこの世にましまさば・・・」
「昔語になりぬれば なほも思ひは真澄鏡 その面影も恥づかしや 枕に立てる破れ車 うち乗せ隠れ行かうよ うち乗せ隠れ行かうよ」
狂言 因幡堂【和泉】 シテ(夫):深田博治 アド(妻):中村修一
能 葵上【観世】 シテ(六条御息所怨霊):鵜沢光 ツレ(照日巫女):多久島法子
ワキ(横川小聖):則久英志 ワキツレ(廷臣):御厨誠吾
アイ(従者):善竹大二郎
中入りはなく、シテは後見座で面を泥眼から般若に変えて、後半のワキの調伏との闘いになる。
解説の観世喜正先生によれば、現在1100人くらいの能楽師のうち、女性能楽師の割合というのは2割弱くらいだそうだ。1割もいないくらいかと思っていたので、意外だった。昨今の「女性の活躍する社会」ブームのもっと前、白洲正子さんの頃から、白洲さんのように有名ではなくても、能楽を志す女性たちは着実に地盤を築いてきたのですよというようなことを、やや自慢げにおっしゃっていた。
喜正先生おん自ら、入口で資料パンフなどを手渡しされていたので、驚いてしまった。淡交社の『演目別にみる能装束』(近くの図書館で、借りては返し、返しては借りでほぼ私物化している。買えよっつー話だが、この手の本ってAmazonのユーズドでも結構するので…)のお写真でおなじみの顔がヌーっと眼の前にあるんだもん。
まぁ能楽師っていうのは、他の芸能人に比べると、ずっと一般人に近い位置におられますよね。観客の多くは、私などと違ってちゃんと舞や謡のお稽古をしてらして、その日の舞台上にいる誰かが師匠で毎週じかにお付合いされているっていうケースも多いんだし、チケット申し込みを電話ですると、事務所とかでなく、そのお家の奥様やお母様らしい方がお出になることも多い。
野村四郎喜寿記念公演「安宅」のチケットを申し込んだ時は、本当に昔ながらのいいとこの奥様っていう感じのお声が出られて(まさか大師匠の奥様!?)、丁寧に受け答えして下さったが、こちらの住所を言うときに、◆◆区◇◇の後、〇の〇の〇(住所)の〇(部屋番号)と、貧乏臭く数字を4つ並べて言う所、2つ目で「はい、ではお電話番号を」と言われてしまい、昭和30年代くらいの渋谷や世田谷の住宅地の、〇丁目の〇、という住所を当然として暮らしておられるんだな~と思った。
お若い方でも、長山桂三さんの奥様(凛三くんママ)はいつも桂三さん出演の会には受付にお着物姿でいらっしゃるし(女優さんみたいに綺麗!)、凛三くん出演の会に休憩時間ロビーをウロチョロしている武田章志くんと馬野訓聡くんを見かけたこともある(洋服を着ていると、単につるんで歩いてる二人の小学生だ)。
お能の子方ちゃんたちは、容姿といい芸の確かさといい、大河ドラマの子役とかで世間に披露される機会があれば、もうホントにすごい人気を博すと思うのだが、一人前の能楽師になるには毎日毎日がお稽古で、土日はあっちこっちの公演に引っ張りだこみたいだし、とてもテレビなどに出ているヒマはないのだろう。

久々、というか考えてみたら五雲会は今年初めてだった。月並能は、お正月と春に行ったけれども。
五千円でお能四番と狂言二番という最高なコスパと、予約なしで当日券が買えて20分くらい前に行けば何とか正面席にもぐりこめるし、脇・中ならいつ来ても余裕でOKという有難さ。若手能とはいえ、子方ちゃんたちのパパ年代のパワフルな演能も見られるし、毎月行きたいのは山々だが、なにせ四つも見るとなると、前の晩は早めに寝ないといけないし、それでもどれがどれだったか、ゴッチャになってしまう。
今回は、例のお晴ちゃんゆかりの「六浦」、観世喜正氏の講演を聞いてハマるきっかけとなった「敦盛」もあるので、仕事も遊びもスケジュールが押している中、是非にと出かけたものであるが、やっぱり行って好かった。
能「岩船」
能「敦盛」
能「六浦」
能「夜討曽我」
狂言「因幡堂」
狂言「柑子」

能「橋弁慶」
能「船弁慶」
狂言「雷」
仕舞「白楽天」
仕舞「花筐」
仕舞「竜虎」

小町ものは「草紙洗小町」しか見たことがなく、今回「卒塔婆小町」だというので早速申し込んだ。
能「卒塔婆小町」【宝生】 シテ(小野小町): 田崎隆三
ワキ(高野山の僧):野口能弘 ワキツレ(従僧):野口琢弘
小町を主題にしたものは他にも「通い小町」「鸚鵡小町」「関寺小町」など数多いが、現役時代の小町がヒロインのものは草紙洗だけで、あとは老残のホームレス老女として登場する小町っていうのが面白い。
狂言「栗焼」【和泉】 シテ(太郎冠者):野村万作 アド(主):深田博治
「立派で粒のそろった丹波の栗」が出てくる話(嬉)
趣旨としては、附子とか柑子などのように、主家の食材をうっかり食べ尽くしてしまい、どうやって言い抜けるか・・・という話の一つだが、これはそれよりも美味しそうな栗を焼いていく実況中継(?)が見所かも(万作師の神演技に観客席が吸いこまれていた)ラストも「やるまいぞ」と追いかけるのでなく、静かな終わり方。
能「殺生石」【金春】 シテ(里女/野干):櫻間右陣
ワキ(玄翁和尚):野口敦弘 アイ(能力):石田幸雄
「殺生石」は何度か見ているのだが、恥ずかしながら「黒塚/安達原」(これも何度か見ている)とゴッチャになっている。同じような青いツクリモノが出てきて、前シテが女性で作り物から出てくる後シテが鬼で・・・
舞台もそんなに離れてはいない?今のでいうと黒塚は福島県で殺生石は栃木県か。
玉藻前というのはフィクションだと思うが、玄翁和尚と安倍泰成は実在の人物。玄翁は喜多方に示現寺という寺を開いた人で、安倍泰成は清明の七世の子孫だそうだ。
今回、脇正面の後ろの一番はじっこの席しか取れなかったのだが、そのおかげで揚幕から登場するワキやシテが手を伸ばせば届くような距離で、足運びとかもよく見えた。また、作り物の中での衣装替えの様子もわかって面白かった。アイが喋っている時間目いっぱい使って、二人の後見が(奥のほうにいる一人は見えないけれども)大わらわで着付けていた。囃子方(とくに大鼓と小鼓)が邪魔!って感じなのが笑える。
お能日記とは何の関係もないが、今回上演の宝生能楽堂のすぐ裏手にある女子校が、このところ話題の某暴言暴力議員の母校である。これまで能楽堂を訪れた時には、あまり遭遇しなかったのだが、今回はちょうど定期試験期間であったものか、桜バッジをつけて水道橋駅のほうに下りてくる女子高生たちの群れとすれ違った。さすがに皆頭の良さそうな子ばっかりで、一般に女子高生の群れとすれ違う時のキャピキャピ感は低いが、困った先輩の事などは気にせずそれぞれ充実の学生生活を楽しんでいるふうで良かった。地の利を生かしたお能サークルとかあるんだろうか?

というか、昨年の東海道歩きで、「杜若」の舞台、三河八橋の知立の杜若を目の当たりにしてからもう一年とは!
舞囃子「清経」【喜多】 佐藤寛泰
「世の中の憂さには神もなきものを何祈るらん心づくしに」
「さて修羅道に遠近の・・・げにも心は清経が仏果を得しこそありがたけれ」
舞囃子「野守」【宝生】 武田伊佐
両手に扇を持っての舞だが、テキストを見ると開いた方の扇は鬼神の持つ鏡らしい。
「ありがたや天地を動かし鬼神を感せしめ、土砂山河草木も一仏成道の法味に引かれて鬼神に横道曇りなく、野守の鏡は現はれたり」
女性のシテ。宝生流の武田家・・・友志・文志ご兄弟と子方章志くんの観世流の武田家とは全然
別なのか、親戚筋なのか? 検索してみたがよくわからない。青翔会のプログラムが前よりも薄くなり(サイズは一回り大きくなったのだが)前ほど出演者情報が詳しく記載されてないのが残念だ。囃子方にも女性メンバー(小鼓の大村華由さん)。
舞囃子「鵜飼」【金春】 政木哲司
「法華の御法の済け舟 篝火も浮かぶ気色かな 迷ひの多き浮き雲も 実相の嵐荒く吹いて 千里が外も雲晴れて 真如の月や出でぬらん」
シテと囃子方は男性だが、地謡がすべて女性であったことに後でチラシを見て初めて気づいた。最近は地謡に女性が混じっていることじたいは全然めずらしくないが、全員というのはあまりないのでは?でもかなり囃子が賑やかな部分ということもあり、声のトーンが高いとか、全然気づかなかった。
狂言「鐘の音」【和泉】 シテ(太郎冠者):上杉啓太 アド(主人):能村晶人
能「杜若」【観世】 シテ(杜若の精):角幸二郎 ワキ(旅僧):矢野昌平
知立・無量寿寺
「からごろも・・・」の歌碑と在原業平像
