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原作の読み返しと録画視聴がすっかり遅くなってしまったが、なんとか2月中に出来てよかった。来月からはいろいろと、アウトドア計画やお疲れ様会・年度末雑用などが待っているので…

原作は1989年、ちょうど昭和から平成の年に出版されたが、雑誌連載は85年から。日本の男性たちが、リタイア後の生活をいかに過ごすべきかという未曽有の問題に直面した時代である。

現在リタイア生活真っ只中の団塊世代は、それなりに現役時代から心の準備も出来ており、ブログやフェイスブックという新しいツールも手にしていて(乗り遅れている面々は年賀状とかでも)、我がリタイア生活を同期生たちにさりげなくアピールする術も身につけている。もっともやりすぎると、クサイとかイタイとか顰蹙も買うのであるが(^^;

それに比べると30年前にリタイアを迎えた一世代前の男性たちは、生活のためにひたすら働き、現役中に癌や交通事故や過労で倒れることには敏感に備えてきたものの、そういった不幸に合わず無事に定年を迎えた後、何らかの問題があろうとは予想もしなかったのだった。気づいてみれば日本人の長寿は毎年更新され、安らかに天に召されるまでの人生がまだまだ目の前に続いているのに、何をしたらよいかわからない、という事が新しい社会問題になった。城山三郎の『毎日が日曜日』が大きな共感を呼び、女性陣からは「濡れ落ち葉」などと容赦ない言葉も投げつけられる。

そうした中で、『三屋清左衛門残日録』は、充実した老後の過ごし方を模索してきた男性たちにとって最適のモデルとなった。現代そのままで書けばあまりに理想的すぎる展開も、時代小説であるために成功したといえよう。
清左衛門のリタイア生活――読書・学習に散歩、渓流釣り、道場で子供たちにボランティア指導――これだけでも、インドア・アウトドアに渡り理想的だと思われるが、さらにはお家の跡継ぎを巡る派閥争いについても、水面下で調整役を期待される。現役を退いたと見えて、その見識とコミュニケーション力が密かに現役に影響力を与えている。読者のリタイア男性たちが最もあこがれを覚えたのも、この部分ではないだろうか。

ドラマ化は今回の北大路欣也主演のが初ではなく、1993年にNHKで仲代達矢主演で映像化されている。私は、原作は出版されて間もなく読んだけれど、このドラマは見逃していた。原作はそれなりに面白く読んだのだが、映像化を録画してまで見ようという思い入れは無かった。何より老後の過ごし方というのは、自分にとってまだまだ先のことだった。
今思うと、仲代達矢の清左衛門も見てみたかったと思うのだが、実はこのNHKドラマは、藤沢周平全集の解説では、中野孝次氏によって一刀両断、というか殆ど罵詈雑言を浴びせられている(^○^)
「仲代の演ずる清左衛門はいいのに、嫁の里江がへんに色っぽすぎ、涌井のおかみもダメで、あとは見る気が起きなかった」
まぁこのドラマ自体がどうこうというよりも、中野氏は一昔前の文化人にありがちな、テレビというメディアそのものにアレルギーを持った方だったようで、「テレビというのは実に下品で劣等なメディア」「テレビマンの触れるところ物みな下品になる」等など、もう言いたい放題。
実を言うと私も、「活字>漫画」「舞台>映像」という確固たる価値観から抜け出せずにいて、本と舞台(演劇)は同等だけれども、漫画やテレビはワンランク落ちる(映画は少数の選ばれたものが活字・舞台と同等)と思っているので、中野氏の言を読んだ時は密かに「もっと言ってやれ」と心の中で拍手を送った。もっとも今では、ネットという、下品さから言ったらテレビも裸足で逃げ出すようなメディアが出て来てしまった訳であるが…

それはともかく、今回のBSフジのドラマ化は、民放にも関わらずなかなか良かったと思うのだが、中野氏が存命だったら果たして合格点をつけるだろうか? 2004年に逝去されてしまったのは大変残念だ。
今回は前篇・後篇で脚本家が違っていた(息子役の俳優も違った)のがちょっと気になったが、総じて原作どおりに作られており、お家騒動の主筋(藩主とその弟または叔父との争いという、海坂藩もののお約束)を中心に、原作エピソードの取捨選択も適切で、うまく脚色されていたと思う。配役もハマり過ぎ(笑)で安心して見られた。

とくに前編は、びっくりするくらい原作に忠実で、唯一(?)脚色で膨らませた部分が、村の大地主多田掃部と偶然に清左衛門が釣で会い、その後彼の家を訪ねるという所。この脚色は秀逸で、この人物が後篇には全然出て来なかったのは残念だった。もともと、作者ももう少し活躍させたかった登場人物だったのではないかと思われるし、配役もぴったり(大河ドラマ直虎にも出演中で良い味を出している、アマチュア考古学者にして元石原軍団俳優の苅谷俊介さん。ファンです。)だったので惜しい。

後篇は、若い頃の友人たちと、晩年になってからの境遇の違いが主要なテーマとなり、同じ作者の『風の果て』を思い出させて面白かった。
実は私は、『残日録』の前年に出たこの『風の果て』のほうが、原作・映像ともに好みである。ドラマ化はNHKで2007年、昨年再放送もされたが、主人公が清左衛門のように悟りすましてはいない、もっとアクの強い男である所がリアリティがあった。
また、『残日録』の大塚平八(笹野高史)と金井奥之助(寺田農)の対比も面白いが、『風の果て』に登場する、出世した主人公とはすっかり身分の開いた貧しい下級武士ではあるが、幸福に生きていて、主人公とも対等に接する、救いのある人物がいないのがちょっと物足りない。たぶん読者の大部分はこの男性に自分を重ねて読むのではないかと思うが、『残日録』は清左衛門の一人勝ちみたいなところがあって、金井奥之助ではないが、「どうしてあいつばかりが何事もうまく行って、かっこよく生きられるんだ!」という気がしてくるのも否めない。

原作では「行間を読んで感じる」部分を、映像化ではどうしても具体的に説明せざるをえない、というのがドラマ化の苦労するところだろう。全く小説どおりにしてしまっては薄味すぎる、あるいは原作を読んでない人にはわからない、しかし原作を読んでいる人には余計に感じられる…難しいところである。
今回でいえば、後篇の、金井奥之助の葬送シーンでの清左衛門と金井の息子とのやり取りあたりであろうか。やや「しゃべり過ぎ」かとも思われたが、全体的に見て、納得できる補足だったように思う。

逆に小説どおりにやられてちょっと白けたのが、ラストの居酒屋の女将との抱擁シーンで、せめて遠景とかにしてほしかったような。私が脚本家だったら、この女将は原作と違い、もう少ししたたかな女で、元用人の威光を利用して自分の幸せをゲットするような形にしたいかもしれない。

藤沢周平の小説の経緯としては、初期の、クオリティは高いけれども「暗い」短編群から、中期の、波瀾万丈で面白い長編や連作と、同時期に並行して書かれた実在人物が主人公のきっちりした歴史小説。そして後期の、あっさり薄味ながら味わい深いと評されるもの。
『三屋清左衛門残日録』は、この晩年の代表作品であろう。
長らく中期の作品(といってもちゃんとした歴史小説のほうは未読多)を中心に読んできたが、そろそろ、後期作品がお友達になりそうだ。



 

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『三屋清左衛門残日録』  藤沢周平

Comments

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最近藤沢作品を少し読んでいますけどこの三屋清左衛門残日録はまだ読んでいませんドラマは仲代達也さんのも北大路欣也さんのも見ましたけど
私はどちらもいいと思ったんですけど
私も原作を読んでいるとどうしても原作が良く思えてしまって
がっかりすることが多いです
そういえばカワセミにも隠居された同心の方を扱ったお話もありましたね

ぐり URL 2017/02/27 (Mon.) 16:31 edit

ぐりさん、コメント有難うございます。
かわせみの江戸篇では、リタイア老人であまり良いモデルになりそうな人はいませんでしたね~明治編では、通之進様が理想的な老後のようですけど(^^♪
そういえば、ぐりさんのブログへのリンクが、トップでなくリンクした日の記事になってしまっていた事にようやく気が付いて直しました。申し訳ありませんでした。
富山に行ってこられたとか、お天気は残念でしたけど、お寿司が美味しそう!!日本海の海の幸が味わえる所というのは予想がつきましたが、景色を楽しめるスタバの事は全然知りませんでした。
ぐりさんの所のように、素敵なお写真もなくて文字ばかりの読む気も起らないブログですが、お寄り頂いて有難うございます。

ストファ管理人  2017/02/27 (Mon.) 23:42 edit